車の個人売買でトラブルに巻き込まれることは意外と多いものです。特に、知識が不十分な場合、無駄な出費や思わぬ人間関係のトラブルに発展することもあります。
このページでは、車屋としての経験をもとに、個人売買でよく起こるトラブルとその予防策、そして万が一の事態に備えるための事前対策を詳しく解説します。
案内するのは、新車中古車販売・国土交通省/陸運局認証車検工場を営むオートディラーの「長嶋」です。50年の経験をもと実際に起こったトラブルや解決方法を解説しています。
車の個人売買でよくあるトラブルとその回避法:プロが教える安心取引のコツ
車の個人売買の魅力と隠れたリスク
車の個人売買は、中間業者を介さない直接取引が可能なため、多くのメリットがあります。
- コストを削減できる:中間業者を通さないため、買取業者の手数料や消費税を支払う必要がなく、売買コストを抑えられます。
- 高額での売却が期待できる:直接取引により、買取業者の利益分を省けるため、車をより高い金額で売却できる可能性があります。
一方で、これらのメリットの裏には、見落としがちなリスクが潜んでいます。個人売買では、車両の適正価格や契約内容の確認、相手との信頼関係の構築など、専門知識が求められます。これらを怠ると、後々トラブルに発展する恐れがあるため注意が必要です。
車の個人売買でよくある「3大トラブル」とその回避法
トラブル1.事故車や不具合車を買ってしまった!避けるためのポイント
個人売買の最大のリスクのひとつは、事故車や不具合車を買ってしまうことです。売主が車の状態を正確に伝えなかったり、買主が事前にしっかり確認しなかった場合、後でトラブルになることがあります。
事前対策1.立ち合い確認で安心取引を実現
個人売買時には、双方が立ちあい、車の不具合部分の確認をしましょう。
この時、一般の人は外装ばかりチェックしがちですが注目したいのは内装です。特にペット毛やペット臭、人間のおもらし臭(特に福祉車両)には注意が必要です。掃除やクリーニングで見かけは綺麗でも、後から強烈に匂います。動物アレルギーの人は、もっと困りますよね。後でトラブルのもとにならないよう、事前にきちんと確認しましょう。
事前対策2.ネット購入はリスクが高い?対面取引を選ぶ理由
ネットでの中古車の購入にはリスクが伴います。特に個人販売を装った悪徳業者が粗悪な車を出品して利益を上げている場合があります。これらの業者は「ノークレーム・ノーリターン」を掲げ、詳細な車の状態を伝えずに販売します。例えば、エンジンの調子が悪いことを記載せず、購入者が質問しなかった場合には責任を取らないといった手口です。
また、個人売買サイトの規約では、「トラブルが起きても、本サイトは一切責任を負えません。」と、はっきりと明記してあります。これにより、取引後に問題が発覚しても、自己責任で解決することになり、相談先がないというケースが多いのです。信頼できる業者や専門家を通じて取引を行うか、少しでも疑わしい点があれば取引を見送る勇気を持つことも大切です。
事前対策3.契約書を交わして後々のトラブルを防ぐ方法
個人売買を行う際、不安を感じる方には、「暇疵担保責任」を付けた「自動車販売契約書」を交わすことをおすすめします。
「暇疵担保責任」とは、車を売却した後に売主が申告しなかった不具合が発覚した場合、1年間の間に損害賠償や修理を請求できる権利です。これにより、購入者は不具合があった場合でも、一定期間内に対応を求めることができます。
しかし、この責任を追及することは、一般の個人売買では非常に難しいことが多いです。専門的な知識がないと、車の不具合や問題を正確に把握することができず、売主が不具合を隠していたとしても、それを証明することが難しい場合がほとんどです。また、一般人が法律的に「暇疵担保責任」を追及することは、手続きが複雑で時間もかかります。
そのため、契約書を交わすことは重要ですが、契約内容をしっかりと理解し、実際に責任を問うことができるのかについても事前に確認し契約書を作ることが大切です。
販売契約書は、下記を参考に作り直してください。タップで開きます。
自動車売買契約書
売主○○○○(以下「甲」という。)と 、買主○○○○(以下「乙」という。)とは、甲乙間の売買契約に関して、以下のとおり合意した。
第1条 (売買契約)
甲は、乙に対し、甲所有の下記自動車(以下「本件自動車」という。)を売り渡し、乙はこれを買い受ける。
記
登録番号
車 名
型式・年式
車体番号
第2条 (売買代金の額)
本件自動車の売買代金は、金○○万円(消費税含む。)とする。
第3条 (売買代金の支払時期およびその方法)
乙は、甲に対して、次の各号のとおり第2条の売買代金を支払う。
- ① 契約日に、手付金として金○○万円支払う。
- ② 残代金のうち、金○○万円を、平成○年○月○日に、現金を甲に持参する方法で支払う。
- ③ 残代金○○万円を、平成○年○月○日までに、甲が指定する金融機関の指定口座に振り込む方法により支払う。振込手数料は乙の負担とする。
第4条 (引渡し)
甲は、乙に対して、平成○年○月○日、第3条2号の金○万円の支払と引換えに、本件自動車を引き渡す。
第5条 (所有権の移転時期)
本件自動車の所有権は、第3条3号の支払時に、甲から乙に移転する。第3条3号の支払前に所有名義の変更がなされた場合でも、支払時まで甲に本件自動車の所有権を留保する。
第6条 (名義の変更手続等)
- 1 甲は、乙に対して、本件自動車の取扱説明書、自動車検査証および名義変更手続に要する書類を、前条の引渡し時に交付する。
- 2 名義変更に要する費用は、乙の負担とする。
- 3 乙は、本件自動車の平成○年度分の自動車税について、平成○年○月以降の月割相当額を負担する。
第7条 (危険負担)
本契約締結時から本件自動車の引渡し時までに、甲の責に帰することのできない事由により、本件自動車が滅失または毀損した場合は、乙の責に帰すべき事由によるときを除き、その危険は甲の負担とする。
第8条 (瑕疵担保責任)
- 1 乙は、本件自動車の引渡し時に、本件自動車であること、本件自動車の装備・外観等の状態について確認を行う。
- 2 甲および乙は、甲が瑕疵担保責任を負わないことを確認する。但し、前項の時点で、乙が確認困難な瑕疵については、この限りでない。
第9条 (解除)
- 1 甲または乙は、相手方が本契約の義務の履行を怠った場合には、1週間以上の相当期間を定めた催告の後、本契約を解除することができる。
- 2 前項の場合において、解除権者は、相手方に対し、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。
第10条 (合意管轄)
本契約に関して訴訟の必要が生じた場合には、○○地方裁判所を専属管轄裁判所とする。
第11条 (協議)
本契約に関して、疑義が生じた場合または定めのない事由が生じた場合には、両当事者は、信義誠実の原則に従い協議を行う。
以上本契約の締結の証として、本契約書2通を作成し、双方記名捺印の上各自1通を保有する。
平成○○年○○月○○日
甲(売主) 住所 ○○○○
氏名 ○○○○
乙(買主) 住所 ○○○○
氏名 ○○○○
トラブル2.名義変更が遅れるとどうなる?予防策と対処法
車の個人売買でよく発生するトラブルの二つ目は、「名義変更が遅れたために生じる問題」です。名義変更が遅れると、自動車税の支払いや事故時の責任問題などでトラブルが発生する可能性があります。これを防ぐためには、取引開始時にしっかりと取り決めを行い、契約内容を確認しておくことが非常に重要です。
事前対策1.名義変更の期限を設定しよう
名義変更は、売買後できるだけ早期に行うことが非常に重要です。
名義変更をせずに乗り回して事故をおこすと、「車の所有者に賠償責任が生じる」場合があります。
法律では、事故当時者に支払い能力がない場合、「自賠法3条の運行供用者責任」によって車の所有者が賠償責任を負うとされています。
「自己のために自動車を運行の用に供する者は(運行供用者性の要件)、その運行によつて(運行起因性の要件)他人(他人性の要件)の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。」
自賠法3条
売買契約時に名義変更の期限を具体的に設定し、その期限を両者が守るように確認することで、後々の責任問題を防げます。
事前対策 2.自動車税の支払い義務を事前に確認
自動車税の納税義務者は、毎年4月1日時点の車の所有者です。つまり、売主が車を売却後、翌年の4月1日を過ぎても名義変更を行っていないと、旧所有者に自動車税の納税義務が発生することになります。これにより、売主と買主の間で支払義務を巡るトラブルが起こりやすくなります。
自動車税の支払いについては、取引開始時に売主が支払うのか、買主が支払うのか、あるいは車両代金に自動車税を含めるのかを事前に合意しておくことが重要です。例えば、車両代金に自動車税を含める場合は、その旨を契約書に明記しておき、後で「自動車税込みで買った」といった誤解を防ぎます。
自動車税の未納が引き起こすトラブル
自動車税の納付義務があるにもかかわらず、納付書を放置しておくと、滞納税金として差し押さえが行われます。県税局は滞納者の銀行口座から、強制的に延滞金が加算された自動車税を差し押さえるので注意が必要です。
事前対策3.期限を守らない相手への対応策
もし名義変更が期限内に行われない場合や、自動車税の支払いに関して問題が発生した場合の対応策も事前に決めておくことが重要です。期限を守らない場合は、個人売買の「取引中止」の約束をしておけば、両者が責任を持って手続きを進める動機付けになります。
信頼できない相手には事前の対策を
取引相手がよく知らない人や、少しだらしない印象の友人である場合、さらに慎重に取り決めを行う必要があります。その場合、売る側が名義変更することや、自動車税を事前に預かっておくなどの対策を講じておくと良いでしょう。
名義変更や自動車税の支払いに関して、事前にしっかりと取り決めを行い、相手と合意しておくことで、後々のトラブルを防ぐことができます。特に、信頼できない相手との取引や、親しい友人との売買でも、しっかりと書面に残しておくことをお勧めします。
トラブル3.詐欺に巻き込まれる前に!被害を防ぐための最善策
一般の人が個人売買で車を購入する場合、詐欺や盗難車、冠水車、メーター改ざん車を見分けることは非常に難しいです。これらの問題がある車は、写真や情報だけでは正しく判断することができません。安易に個人売買に手を出すのはリスクが高いというのが現実です。
最近では「売り手×買い手」をマッチングさせるサイトやアプリの利用により、車の個人販売がしやすくなりました。便利になった分、トラブルも増え、わが社でも相談件数も増えています。
対策1.信頼できる業者を利用してリスク回避
それでも、どうしても欲しい車があって「個人売買」をしたいなら、信頼できる業者や仲介者を通すことをおすすめします。例えば、普段お世話になっている車検業者や中古車販売店に仲介してもらうなどです。業者や仲介を利用するメリットは、取引に関するノウハウを持っており、万が一のトラブル時にもサポートを受けられる点です。
信頼できる業者は、車の検査や法的な手続きにも精通しており、買主と売主の間で発生する可能性がある誤解や問題を事前に回避できます。専門的な知識が必要な場合や、安心して取引を進めたい場合は、信頼できる業者や仲介者を利用することをおすすめします。
対策2.車の状態を徹底的にチェックしよう
車を購入する際には、その車の状態や書類をしっかりと確認することが非常に重要です
特に、メーター改ざんや事故歴、冠水車などの問題がある車は、一般の消費者が目視で判断するのが難しい場合があります。車の状態を正確に確認するためには、車両検査専門のプロフェッショナルに依頼することが有効です。
中古車購入の手引き★購入したら事故車?騙された?事故車の見極め方も参考にしてください。
対策3.契約書でしっかり約束事を交わす
個人売買でも、必ず契約書を交わすことが重要です。契約書には、車両情報や販売金額、取引日程、責任範囲などをしっかり記載しておきましょう。
契約書を作成することで、売主と買主が互いに合意した内容が文書として残るため、後で争いが発生した場合にも有効です。また、契約書は両者の署名・押印を必ず行い、各自で保管しましょう。これにより、法的効力が確保され、万が一のトラブルに備えることができます。
対策4.怪しい取引は無理に進めない!注意すべきポイント
取引先に不安を感じたり、相手の信用性に疑問を持ったりした場合、無理に取引を進めないようにしましょう。例えば、取引相手が信頼できる業者ではない、連絡先が不明瞭、明らかに安すぎる価格で出品されているなどの場合、詐欺のリスクが高くなります。
もし取引が進行しそうな場合でも、第三者を間に入れることを検討することが賢明です。たとえば、信頼できる業者や仲介者に取引をお願いする、支払いを安全な方法(例:銀行振込ではなくエスクローサービスの利用)で行うなど、安全策を講じましょう。また、契約書を交わす前に必ず実物を確認し、書類や状態に不審な点がないか確認することも大切です。
まとめ 安心して車の個人売買を成功させるためのコツ
車の個人売買には魅力がある一方で、事故車や名義変更の遅延、詐欺などのトラブルも少なくありません。しかし、しっかりと事前に対策を講じることで、リスクを大きく減らすことができます。
信頼できる業者の利用や契約書の作成、車の状態確認などを徹底すれば、安心して取引を進めることができます。皆さんが素敵な車を手に入れ、素晴らしいカーライフを楽しめることを心から願っています。